性懲りもなく3週連続でサーフィンに参加したものの、3回目にして早くも洗礼を浴びて凹んだ話。
海はそんなに甘いものではなかったのです。
サーフィン終了のお知らせ
「……残念ですが、とても悲しいお知らせがあります」
海岸に向かう車の中でS角君からこう切り出されたとき、何を言われるのかと身構えた。お前は足手まといだからもう来なくていい、ばりの引導を渡されるのではないかと心配した。
屋上からパイルドライバーでも喰らわされるぐらいの覚悟をもって、続きの言葉を待った。
「ここ数日の寒さで水着ギャルはいなくなりました」
フ○ーーーーック!!
実は急な用事を思い出しまして、もう帰らないと……。
確かにここ数日ですっかり秋らしくなった。と、いうかこれまで参戦したときの天候は、
1回目……曇り。
2回目……大雨。
と惨憺たる有様。そして今日も曇り。しかも極寒(※1)ときたもんだ。
(※1)極寒……10月下旬~11月中旬並の寒さ
これも異常気象の影響なのだろうか。夏のゲリラ豪雨といい、何かおかしなことになっているのは確かだ。
暗黙のルール
曰くサーフィンには暗黙のルールがあるのだという。自分は未だによく理解できないのだが簡単に言えば、
1つの波には1人しか乗れない
というもの。
鵠沼海岸はただでさえ人が多い。遠浅の海岸に漂って波を待つサーファーがそれこそ無数にいる。
波は絶え間なく海岸に押し寄せるが、頃合いの波というのはそれほど多くない。だから頃合いの波が来ると、みんな我先にと岸に向かってパドル(※2)を開始する。一番最初に波に乗った人間に優先権がある……という図式。
(※2)パドル……サーフボードの上に腹這いに乗り、クロールのように水を掻いて前進すること。
そのため、最初に波に乗った人間を見ると、すぐに諦め、次のチャンス(波)を待つ。これぞ譲り合いの精神。
好意か、悪意か
波に乗るチャンスが数限られているからだろうか。結構殺伐とした雰囲気が漂っている。
自分はまだ波に乗れないので、浜辺に近いところでパドルやボードに素早く乗る練習をしようとすると、見知らぬサーファーから「人がいないところでやるように」など平気で注意される。
スキーやスノーボードで例えれば、リフト乗り場に近い緩斜面のところで練習しようとしたら、上から滑ってきた人に「人がいないところでやれ」と言われるようなものだ。
この色黒軍団で溢れかえっている海岸で、「人がいないところ」がどこにあるのか教えて欲しいものだ。好意的に解釈すれば事故に繋がらないように親切心からの忠告。悪意の目で見れば邪魔だから余所へ行け、ということか。初心者の私にはとても1人で行けるような場所ではない。
凹んだジョニー
なにやらネガティブなことを書き散らしたが、前回ほんの少しだけ波に乗れて(……という感覚を味わって)サーフィンが楽しくなってきた。
水着ギャルは残念ながらシーズンオフになってしまったが、寒ささえ克服できればもっと楽しめるのではなかろうか。そう思い始めてきた。
で、3回目の今回にして早くも一人立ち。Y本コーチにサーフボードを借りて練習に励む。
ところがだ。これまでの教えはどこか消し飛んでしまったかのように上手く行かない。まずサーフボードの上で腹這いになれない。
横からコーチ2人から「バランスが悪い」とか「体の重心が中心線にきていない」などアドバイスを貰うものの、自分ではちゃんと乗っているつもりなのだからたちが悪い。どこが問題なのかすら判らない。しかも各動作で思い出さなければならないアドバイスが多すぎる。1つでも忘れると、たちまち海の藻屑。
あまりの不甲斐なさに腹が立ってくる。
そんなときだった。
腹這いのまま波に押されている途中でバランスを崩して、波に巻かれて天地が混乱していたときのこと。混乱のさなか、海面から一瞬視線を上げると目の前には自分のではないサーフボードが迫っていた。
……だったように思う。
あまりに混乱して訳が分からなくなっていた。
(えっ……、なんだ?)
海面に頭を出したときには、すべてが終わっていた。
「あ~~ぶつかったーーーー!」
女は大声を出した。
女は仲間を呼んだ。
旦那(彼氏?)があらわれた。
女は怒っている。
コマンド?▽
(やっちゃった……)
Y本コーチにあれほど周囲に気をつけろと口酸っぱく言われていたのに。あまりのことに茫然自失。ただその中で、痴漢の冤罪もこうやって造られるのかもな……などと思ってしまった。自分にすべての過失があるのか、五分五分なのか真実はわからない。一つ言えることは声をあげたモノ勝ちだと言うこと。とりあえず被害者面しておけ、と。
しかし自分はキャリア3回目。右も左もわからない。反論しようにも知識も経験も何もない。下手に主張して戦線が拡大しても利益にならぬ。 サーフィンの"ルール"もよく判っていないのに「自分は悪くない」を強硬に主張してモンスターなんたらになるのも恥の上塗りのようで嫌だ。
(とりあえず謝っておくしかねぇな……)
女の後に続いて岸に上がろうとすると、女はもういいからこっちに来るなと言わんばかりに手で追い払う仕草を見せた。しかしここで「はい、そうですか」と海に戻ってしまったら大炎上しかねない。無視しして後を追いかける。
S角コーチが異変を察して「どうしましたー?」と助けに来てくれた。しかし完全に他人のフリ(※3)。
(※3)完全に他人のフリ……本人曰く、関係者と思われたくないから通りすがりの善良サーファーを演じたとのこと。そりゃないぜよ。
女はスタイルは良かったが若くなかった。夏の日差しで色黒く焼けたと思われるシミがかった肌がそう思わせた。さらに海水で張り付いた中途半端な金髪は、自分の中でイメージしていたガラの悪いサーファーの印象そのまま(※4)だった。
(※4)印象そのまま……「絶対アレも黒そう」とはS角コーチ談。彼は外見とは裏腹に毒舌。
「まぁ、別にこのボードはボロボロで捨てるつもりだったから良いのだけど」
女はタバコの煙をはいた。
その言葉が謙遜でも偽りでもないことは、素人の自分から見てもよく判った。しかし女が指し示す先には、確かに新しくついた凹みがあった。
自分はただ「申し訳ありませんでした」と頭を下げるだけだった。
女はガラは悪かったが、性格までは悪くなさそうだった。ここで「ふざけるな、弁償しろ!」とゴネてくるような女だったら「そのボロボロのボードで弁償とは、それはちょっと……」と反論するつもりだった。例え新品のボードだったとしても最悪金で解決できるだろうから、テンションは低空飛行の極みだったものの、さほど深刻には考えていなかった。むしろ深刻そうな表情をする方が大変だった。それよりも何も借り物のボードを傷つけてしまった方のことがショックだった。
幸い"善良なる通りすがりのサーファー"S角コーチの誠実なサポートとフォローにより事態は収拾の方向へ。アレが黒そうな女はそれ以上何も言わなかった。
あまり事情を良く知らない優しそうな旦那からは「混んでいる海だから、周りをよく見てね」と諭された。
波に巻き込まれたあの状況下で、どう周りをよく見ればいいのか教えて欲しいものだ。後から来た方が避ければ(※5)いいんじゃね?……などと反論しようものなら、自称"善良なる通りすがりのサーファー"の好意を木っ端ミジンコにぶち壊してしまいそうだったので、ぐっと押し黙った。
そのときはさぞかし気の抜けた返事をしたに違いない。
(※5)後から来た方が避ければ……色々調べてみると進路を妨害した方(つまり私)がダメらしい。
その場で回れ右して帰りたいほど指数関数的にテンションが下がりっぱなしだったことは言うまでもない。つまり限りなくゼロというやつ。
自分視点で書きたいことを書き散らしたが、よくよく考えてみれば「一つの波に一人だけ」の原則を守れていたかと言われると自信がない。ただそんなことを言い出したら波に乗るための助走すらできないわけで。
まるでゲームセンターの格闘ゲームのように、サーフィンはベテランが楽しむものになっていて初心者お断りのような空気を感じる。
いったいみんなはどうやって上手くなったのだろうか。
……もっと人がいない場所で練習したい。
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