第11回 蘇るN88日本語BASIC(86)
骨董品データ
商品名 | N88日本語BASIC(86) Ver6.2 |
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開発元 | NEC |
発売年 | 1991年頃 |
価格 | 2万円ぐらい |
コメント | 初心者向けプログラミング言語。この言語と出会ったことが筆者の人生に大きな影響を及ぼすことになった。 |
すべては中学校の授業から始まった
筆者の通っていた中学校は、公立としてはおそらく当時最先端と言える情報処理学習環境「パソコン教室」がありました。
町に日立の関連企業があったからどうかは判りませんが、確かパソコンは日立製。なにやら きな臭い感じがしないでもありませんが。
しかもただ教室にパソコンが40台置いてあったわけではありません。
生徒用のパソコンは教室内のネットワークで繋がれていて、教師用の端末から自在に操作可能。ボタン一つで一斉に画面に強制割り込みをかけてこともできたと記憶しています。
今ですらパソコンが苦手な教師が多いと聞きますが、その当時、情報処理を教えられる先生がウチの学校にいたことにも驚かされます。
とにかくその時初めて「パソコン」というものに触りました。
授業ではワープロソフト「テラIII世」を使った文章作成、ペイントソフトを使ったお絵かき、ピンボール(←なぜかゲームもあった)……などなど。
そして情報の授業最大の目玉がBASIC言語を使ったプログラミング演習でした。
驚きました。
言語を学べばソフトウェアが作れてしまう。まさに「無から有を生み出す」プログラミング。大きな魅力を感じたものでした。
パソコンは買った。しかしゲームを買う金がない。
親(正確には祖母)に無理を言って、初めてのパソコンPC-9801 FAを買ってもらいました。当時約45万円ナリ。我が家は貧しかったものの実家は資産家だったのです。
しかし「ソフトがなければただの箱」とはよく言ったもの。パソコン本体だけでは本当に何もできませんでした。
パソコンが欲しかった理由の一つにやはり「ゲーム」の存在がありました。
45万円もするゲーム機ってどうよ?などお叱りを受けそうですが、家が貧しかったのと家庭の方針が厳しくてスーパーファミコンなどのゲーム機は買ってもらえませんでした。
親はスーパーファミコンがゲーム機であるということは知っていました。しかしパソコンというものでゲームができることまでは知りませんでした(おそらく当時のお父さんたちが妻にねだってパソコンを買った理由の大半はコレだと思われます)
しかしパソコンを買ってもらえただけで御の字。とてもソフトを買ってもらうお金はありませんでした。
そんなときに思い出したのが、授業で習ったBASIC。
「ゲームを買う金がないから、自分で作る!」
高校1年生の春。
プログラミングをやろうと思った動機はそんな単純なものでした。
教育用としてのBASIC言語の魅力
ここでBASICって何?という方もたくさんいるかと思います。
BASIC言語は1964年に数学者ジョン・ケメニーとトーマス・カーツによって、コンピュータ教育用の言語として開発されました。
数々の派生(俗に"方言"と言います)が生まれ、NEC製パソコンPC-9801シリーズ向けに移植されたのがN88-BASIC(86)という派生の一つ。
プログラム言語というよりもWindowsやLinuxのようなOS(基本ソフト)としての機能も持っていました。
このBASIC言語は「教育用」と銘打っているだけあって、簡単に習得できます。そして何よりも直感的で判りやすいのです。
「プログラムなんて難しそう」と敬遠している小中学校の生徒たちに「プログラムっなんだろう」「プログラムで何ができるの」を教えるに最適なプログラム言語ではないかと思うのです。
そして最大の魅力は円とか直線が簡単に描けることではないでしょうか。
例えば我が国の国旗。プログラム2~3行で描けます。
こんな風に……。
-------------ここから ----------------
10 LINE(100,50)-(500,150),7,BF
20 CIRCLE(300,100),70,2
30 PAINT(300,100),2
-------------ここまで ----------------
細かいところは判らなくても、英単語からなんとなく何をやっているのか想像がつきます。
もっともこの教材。日○組の方は激怒されるでしょうがw
プログラム言語の主流から大きく取り残されていることは理解しています。
しかしこのように簡単にビジュアルで訴えることができるのはBASIC言語の大きな長所。
プログラムに興味を持たせる、親しみを持ってもらうという意味では現在でも十分有意義な教材だと思っています。
セーブできるBASICが欲しい
閑話休題。
"自分でゲームを作る"ためには、BASIC言語を手に入れる必要がありました。
古参のPC98ユーザなら知っているかと思いますが、PC-9801を購入すればBASIC言語は付属していました。
何もない状態で電源を入れれば、自動的にBASICが起動する仕様になっていました。
これは貧乏学生の筆者には願ったり叶ったりでした。ゲームソフト買わなくてもこれで思う存分遊べる。意気揚々とプログラムに取り組みました。
しかしたちまち不満続出。
まさか作ったプログラムが保存できないとは……。
この電源ONで自動的に起動するBASICは、ROM-BASICと呼ばれているもので書き換えできないメモリ(ROM=Read Only Memory)にBASICが焼き付けられていました。
作ったプログラムをセーブするためには別売のDISK-BASICやMS-DOS版BASICと呼ばれるものが必要でした。
今思えばROM-BASICは試供品のようなものでした。
そこで「これ以上は迷惑を掛けないから」と親に頭を下げて買ってもらったのがこのN88日本語BASIC(86)。DISK-BASIC。
とにもかくにもDISK-BASICを手に入れた筆者は、高校3年間の青春時代をプログラムづくりに費やしてしまうのでした。(実際は雑誌「マイコンベーシックマガジン」の投稿プログラムを打ち込んでいただけ)。
BASICが我が家に届いた日のこと
このシンプルなケースを見るたびに今でも当時の嬉しかった記憶がまざまざと蘇ります。
学校から家に帰ると、この箱がテーブルの上に置いてあったあの日。手にとってみると想像以上にずっしりと重くて(マニュアルのせい)自然とやる気が沸いてきたものです。
そしてもう一つ思い出すことがあります。
親に頭を下げて購入をお願いしたとき、親は「欲しいものを紙に書け」と言いました。私は紙に「N88-日本語BASIC」とだけ書いた気がします
プログラム言語のパッケージはその辺のスーパーで売っているはずがありません。"えぬはちはち日本語べーしっく"などという親にしてればチンプンカンプンな代物を購入するために、さぞかし手を尽くして調べたはず。
この白い箱を見ると、その時の親の苦労と子どものために全力を尽くす親の愛情を想像して、ちょっとだけ胸がいっぱいになるのです。