第13回 蘇るプリントゴッコ
骨董品データ
商品名 | プリントゴッコB6セット |
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発売 | 理想科学工業株式会社 |
理想価格 | 9,800円 |
発売 | 1977年 |
コメント | パソコンが普及していなかった時代に登場した家庭用の版画印刷機。この装置のおかげで年賀状の裏面は一新された。 |
年賀状が作業になってつらい
読者の皆様超ご無沙汰しております。
前回の骨董品「レオパルドン」から約8年。久々に復活しました。
……8年前って何していたっけ?というレベルですが。まぁお付き合いください。
今回実家の納戸から引っ張りだしてきた骨董品は「プリントゴッコ」です。
プリントゴッコへの思いを馳せるとき、セットになって思い浮かべるのは年賀状……。最近、年賀状がどうもつらくなってきました。
年末に「つらいなぁ、でもやらなきゃなぁ」と無理矢理自分を追い込むのが恒例行事。
だったら辞めればいいのにと考えるものの、年1回の行事だからと毎年続けてしまう。
「昔は年賀状を書くのが楽しかったのになぁ……」
などと遠い昔の記憶を思い出すときに、必ず記憶のセットになって出てくるのがプリントゴッコなのです。
家庭で簡単に印刷を!
プリントゴッコが登場した1970年代後半はパソコンを持っている人も少なく、ましてはプリンタとなるとドットインパクトプリンタと呼ばれる バチバチ騒音をまき散らして、印刷できるのは荒い白黒のみ。
日本語ワードプロセッサは普及していましたが、インクリボンが、これまた高価でカラー印刷など夢のまた夢……という時代で、年賀状や暑中見舞いは1枚1枚手書きが当たり前でした。
大量に印刷したければ木版画を掘るか、イモ判でスタンプを作って押すぐらいでした。そんな中でお手頃に、大量に、カラー印刷ができる機能が売りでした。
プリントゴッコの仕組み
簡単に言えば黒色で書いた下絵を高熱でマスターと呼ばれるスクリーンに焼き付け、そのマスターにインクを載せて紙に押し当てると、隙間からインクが染み出して紙にインクが載るという孔版印刷の一種になります。
説明書とセットでご紹介します。
①原稿をつくる
②版をつくる(1)~原稿とマスターをセットする~
(左上から)
・つくった原稿とマスターを本体にセットします
・本体はこんな感じで開きます。
・これがマスターです。
・透明なシートが上についています。最後にインクを載せてシートをかぶせる仕組みです。
・原稿とマスターを本体にセットしたところです
②版をつくる(2)~ランプをセットする~
ここからがメインです。高熱で原稿のカーボンをスクリーンに焼き付けるためにランプをセットするのですが……。
(左上から)
・ランプをセットして、ピカッ!と光らせれば完了。
・プリントゴッコのランプです。これが最強の金食いアイテム……。
・身を挺して高熱を発するので使い捨てなのです。左が使用後、右が使用前のランプ。
・"理想価格"という名の980円。ランプ1個98円か……。
・ランプをセットするランプハウス。光を反射させまくるのでギンギラです。
・ランプをセットしたところ。1回製版するのにランプ2個使用します。約200円……。
・ふたを被せるとピカッと光ります。
この製版時に一瞬激しく光るランプと、その後のプスプスと焼け焦げた臭いがなんとも言えない興奮を感じたものです。
ただ1回製版するのにランプだけで約200円。スクリーンが1枚約100円するため、小学生にはキビシイお財布事情になってしまうのが玉に瑕でした。
③インクをのせる
スクリーンと透明なシートの間にインクを載せるのですが、これがまた技術が必要なのです。
多色刷りをしようと思えば、たくさんのインクを同時にシートに載せるのですが、インクが意図しない場所に染み出していくので色がだんだんおかしくなってしまいます。
これにはインクを同じ量のせたり、インクが広がらないようにスポンジ状のシートを細く切ってインクとインクの間に貼るなどのテクニックを駆使しました。
④印刷する
パソコンのプリンタと違ってインクはなかなか乾きません。
インクが乾くまでハガキを並べて置くスペースも必要でした。
ここでつたないプリントゴッコの作品集(恥)
(左上から)
・1990年の年賀状。うま年か?当時の大河ドラマ「武田信玄」の影響がもろバレ。
・1992年の年賀状。当時の筆者には会心の出来、神奈川沖浪裏。
・同じく1992年の年賀状。カット集を適当に切り貼りすれば良いものができます。
・1999年の年賀状。もう面倒臭くなったのかこれもカット集の切り貼り……。
小学生には厳しいお財布事情
今ではどうか知りませんが、プリントゴッコは当時"定価"という表現は使わずに"理想価格"と呼んでいました。
製造が理想科学工業だからからだと思われますが、当時の筆者にはあまりにも高価で、理想価格という表記があまりにふざけたもので、「何が理想だ!ぼったくり価格じゃないか」と真剣に思っていました。
(左上から)
・プリントゴッコB6セットの一覧。付属品込みで理想価格9,800円でした。
・インクは全部で19色ありました。金色や銀色も用意されていました。
・インクは1本500円。なかなか買えませんでした。
・ハイメッシュインクと呼ばれる高性能インクがありました。内容量5分の2で300円。高い…。
・ランプは10個で980円しました。1回製版すると約200円飛ぶので失敗はできませんでした。
・マスターとよばれるスクリーンは5枚で490円。これも高価でした……
・他にも色々な付属品がありました。
・キラキラ金粉のように見せられるパウダーみたいなものもありました。
理想科学工業のwebサイトによればプリントゴッコは当時の理想科学工業社長である羽山昇が「すべての家庭で親子一緒に印刷ゴッコを楽しんでほしい」、「家庭における『ごっこ』遊びこそが知育の源泉である」との思いから開発され、名づけられたとあります。
ごっこ遊びにしては高いっすよ……羽山社長。
手づくりの楽しさ
wikipediaによれば1997年にこのプリントゴッコB6が発売されてから、1987年(昭和62年)に年間最多の72万台、累計売上台数は日本を含めた全世界で1050万台 というお化け商品になりました。
そしてパソコンのプリンターが普及したこともありプリントゴッコの需要は低くなり、2008年(平成20年)6月末に本体の販売が終了。2012年(平成24年)に12月28日でプリントゴッコ事業の全てが終了し、 35年の歴史に幕を閉じたのでした。
プリントゴッコという製品に思いを馳せるとき、やっぱり手づくりの楽しさがあったと思います。
「家庭における『ごっこ』遊びこそが知育の源泉である」という信念は決して間違っていなかったと思います。
今のパソコンで印刷して終わりっ!というそっけない年賀状を見ると(自分のも含めて)、例え下手でも手作りの年賀状には温かみがあったと思います。
出すのも受け取るのも楽しかったし、過去にどんな年賀状を作ったのか覚えていたものです。
パソコンでちゃっちゃっと大量に作れるのは、なんともコンビニエンスな時代になったと思います。
けれどもそれは決してサボっているわけではなく、年末ギリギリまであくせく働かされ、年賀状を書く時間的なゆとりもなくなったところに根本的な原因があるように思います。
過労死問題もクローズアップされている今、せめて人間らしく働き方をも見直すべきではないでしょうか。